レポート

「ソーシャルメディア×イノベーション」レポート

SFC Open Research Forum 2011(2011年11月22日)

プラットフォームデザイン・ラボ 「ソーシャルメディア×イノベーション」

NBIコンソーシアムは、2011年11月22日、SFC Open Research Forum 2011において、「ソーシャルメディア×イノベーション」と題して、「スマート化」「ソーシャル化」「クラウド化」といったメディア環境の変化が、イノベーションにどのような影響を与えるかについて議論致しました。


パネリスト
石黒不二代 氏 ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長兼CEO
勝間 和代 氏 経済評論家
藤田 憲彦 氏 民主党 / 衆議院議員
國領 二郎    総合政策学部 教授
折田 明子    政策・メディア研究科特任講師

モデレーター
ジョン キム   政策・メディア研究科特任准教授


折田明子折田氏:私の方からは「ソーシャルメディア」「名乗り」「アイデンティティ」などのトピックを中心に、話題提供をしていきたいと思います。まず現代からは大きく離れた話になりますが、平安時代には多くの文が取り交わされていました。手紙の頻度は、一日に何回もやりとりされていたそうです。その手紙のやりとりは、短い文章に様々な意味を込めたり、送るタイミングや使う紙の種類などに意味を持たせたりと、様々な工夫がされていました。これらは現代のケータイメールでのやり取りと似た感覚であると思われます。その他にも、他人に読まれる前提で書かれた『和泉式部日記』などの日記文学はBlogに近いものがありますし、文字制限のある和歌はTwitter、和歌集はまとめサイトに近い。このように平安時代のコミュニケーションと現代のソーシャルメディアには共通点がいくつも見られると思います。

また、平安時代のこれら文章は、匿名で書かれたものでも筆跡などから個人が特定されることもあったようです。同様の問題は、現代のソーシャルメディアに関しても指摘できます。ネットに関して、「匿名であるべき/実名であるべき」や「日本は匿名主義」といった大雑把な議論がなされることがありますが、実際には名乗りの問題として実名と匿名の他に「筆名」という段階も存在します。さらには筆名の他に、その人の有するソーシャルグラフ自体も情報になりえるため、実名を使わない場合のソーシャルメディア利用でも、必ずしも匿名性が高いとは言えない状況があります。さらには投稿しないことすら、意図せず個人のアイデンティティに関わる情報を発信していることになりえます。こういったソーシャルメディアとプライバシーの関係を考える上では、相手に見せたくないことが見えてしまう可能性まで含めて、どう情報開示していくかを考えていく必要があると思います。

石黒氏石黒氏:私の方からはソーシャルメディア産業の動き、およびソーシャルメディアを活用したマーケティングの可能性について、事業から得た知見をもとにお話します。Gmail, Twitter, Facebookなどは今回の震災時に強かったサービスですが、全てクラウドベースで作られています。日本企業はこのようなクラウドベースのアプリ利用が遅れている一方、米国では1996年頃からすでに導入が始まっていました。日本のベンチャーが米国と比べなかなか出てこないのは、このような新しいものを試していく気概のなさも関連していると思います。ただし震災を機に、こういった風潮も変わりつつあるのですが、あくまでクラウドで儲けているのは米国系企業ばかりです。彼らは半端ではない額の投資を実行しており、プラットフォーム競争にて大きく水をあけられているのが現状です。個々の日本企業の取り組みは改善されてきているものの、プラットフォーム競争という観点では国家戦略的レベルでの大型投資を画策しない限り、追いつくのは容易ではないのが現状です。

また、企業のマーケティングは、ソーシャルメディアの登場によって大きく流れが変わりました。現在は様々な情報がネット上に溢れ、消費者は情報を咀嚼しきれなくなっています。一方で、消費者自身がソーシャルメディアを活用して情報発信をするようにもなりました。大量生産/大量消費の時代は大企業が強かったですが、ソーシャルメディア時代になると「大企業が一方的に情報を流して消費者が受け取る」といったモデルではなくなります。ソーシャル革命、ソーシャルエンタープライズの誕生と言えると思います。企業がマーケティングを考える上では、ソーシャルの声を傾聴することが重要となります。それを支援するツールも今や数多く存在し、発言回数/発言者の男女比/発言のポジネガ比率など、様々な情報を得ることが出来ます。従来型のクレーム処理ではなく、消費者の声に出向いて要望などを拾い上げる取り組みを、我々はソーシャルCRMと呼んでいます。ソーシャルCRMではLife Time Valueの向上よりも、「関係性育成」「潜在顧客育成」といったところに力点がうつります。このような取り組みは日本人の国民性や働き方にフィットするものと思われ、ソーシャルに関するゴール設定が明確になされれば、日本企業躍進の原動力となりうると考えています。

勝間氏勝間氏:私はソーシャルメディアの役割を「つながりを強化すること」だと考えています。運の正体は人とのつながりにあると考えていて、その意味でソーシャルメディアは「運が良くなるツール」だと認識しています。企業のマーケティングにソーシャルメディアが役立つかという点に関しては、人件費を極力減らす方策を取らない限り、なかなか難しいのが現状です。私の53万人のTwitterフォロワーなどを見ても、発言への反応率はわずか数%で、決して効果が大きいとは言えません。広くリーチするという意味でのマスメディアの重要性は、いまだ変わりません。

ソーシャルメディアを生かすためには、ソーシャルメディア上でつながった人と実際に会うことが重要だと考えています。リアルなつながりは重要です。人は本来五感を使ってコミュニケーションを取りますが、ソーシャルメディアでは主に視覚しか使えません。あくまでソーシャルメディアはイノベーションの入り口でしかなく、つながった人と実際に会うというアクションを起こすことがイノベーションにつながるのだと思います。

国領二郎國領氏:ソーシャルメディアなどのプラットフォーム設計においては、「創発」が一つのキーワードになると考えています。空間を上手に設計することで情報交換を促し、創発的な価値向上実現の蓋然性を高めていくことが必要であり、その設計要因を研究してきました。そこから抽出された5つのプラットフォーム設計指針をご紹介したいと思います(『創発経営のプラットフォーム』参照)。第一に「資源(能力)が結集して結合する空間をつくること」。第二に「新しいつながりの生成と組み替えが常時起こる環境を提供すること」。第三に「各主体にとって参加の障壁が低く、参加のインセンティブを持てる魅力的な場を提供すること」。第四に「規範を守ることが自発性を高める構造をつくること」。第五に「機動的なプラットフォームを構築できるオープンなインフラを整えること」。我々はイノベーションを生むためのプラットフォーム設計指針として、これらの点をもとに考えを深めている段階です。

現在のソーシャルやiPhoneアプリなどの潮流に関して言えば、ベンチャー起業の敷居が大きく下がり、チャレンジしやすくなっている状況だと思います。ブラウザが出来立ての頃、携帯が普及し始めた頃に続き、第三の波が来ている。ただし石黒さんも指摘された通り、プラットフォームの上で踊る人は多く出てきた一方、プラットフォーム自体の競争で勝てるベンチャーは日本にはまだあまり出てきていないのが課題と言えると思います。

ジョン・キム

キム氏:大学/SFCというイノベーションを生み出す環境を作る側に身を置く立場であるわけですが、ご紹介いただいた研究が生まれた問題意識や、現在の研究のフェーズなどについてもコメントいただければと思います。

 

國領氏:今回の研究成果は約10年がかりのもので、根本の問題意識は「何でもつながるインターネットというだけではダメで、その上のレイヤーで規範やルールで縛る必要があるのではないか」という点です。17-18年前から環境作りを「プラットフォーム」というキーワードで考えていて、今回はネットワーク外部性などの定量的観点を超えたところで「創発」という概念に行き着きました。まだ5つの仮説を構築した段階で、仮説を検証していくフェーズはこれからとなりますが、今後の議論の土台になると考えています。

勝間氏:企業やNPOなどの組織的活動自体も、創発の例だと考えられると思います。今回の研究の新規性としては、「ネットワーク」概念を入れたことでしょうか?

國領氏:はい、やはり「情報」「ネットワーク」がキー概念であると言えます。今年の震災に際しても、国-県-市町村といった階層的/垂直的な関係よりも、市町村同士などの水平的連携が機能したケースも多くありました。ネットワークによって情報コミュニケーションが促進され、階層的原理から水平的原理へ移行し、自律的なイニシアティブを取っていく仕組みが出てきています。それを実現するためには、単に空間が自由であればいいのではなく、規範などを設定することが有効であるというのが、我々が考えていることです。

勝間氏:イノベーションを生み出すためには、共通目的を持って議論を深めるためのクローズドなコミュニティが必要になると思います。私が主宰するコミュニティの経験からは、特にそのコミュニティにおけるモデレータのリーダーシップが非常に重要だと感じています。その役割をどうルール化していくか、などの踏み込んだ指針が重要であると思います。

折田氏:勝間さんがご指摘された「モデレータの役割」は非常に重要ではあるものの、必ずしも皆がそれを実施できる訳ではない。それを支援するために、プラットフォームを設計する必要があると思います。

國領氏:集団の議論によって集合的にイノベーションが生まれてくるのか、それともイノベーションは結局個人に帰着するものなのかは難しい論点です。ただ、イノベーションが生まれやすい環境というのは存在すると思っています。それを実現するプラットフォーム設計を考えていきたい。

プラットフォームは、その上では柔軟な取り組みが行われているものの、それ自体は硬直性/安定性をもったものです。プラットフォームのアーキテクチャはだんだん古くなっていくため、進化が求められる。Steve Jobsを例にとった場合も、彼がいかにすごいかではなく、彼のどこが古いかを考えていくことが、今後のイノベーションにつながっていくと思います。